季節そむいた 冬のつばめよ
 吹雪に打たれりや 寒かろに
 ヒュルリ ヒュルリララ
 ついておいでと 啼いてます

(森昌子「越冬つばめ」)


土地契約を済ませた帰りの電車内。
ちょうど帰宅時間で、サラリーマンやOLで、ほぼ満員でした。

「どうしたの? 嬉しくないの?」

バード夫の問いかけが、パンパンだった不安の水風船に針を刺しました。
 
ぽたぽたと大粒の涙が流れ落ちます。

四ツ谷に注文住宅を建てる夢が忘れられない・・・。まさにマリッジブルーという感じ・・・。大好きな人以外と結婚するのが怖い・・・

と告白しました。

もう新宿くんを見つめて生きる方が良いことはわかっているのに、不良の四ツ谷くんを求める馬鹿な女心がやるせなくて、ハラハラと涙がこぼれました。

女の海の底には、「悪い男に組み敷かれたい」という沈没船が沈んでいるものです(←え? バードだけ?)  バードがこの青い欲求を手放せるまでには、もう少し時間が必要でした。

 

マイホームは、夫から妻への愛のプレゼントです。こんなに大きな決断をしたのに、肝心の妻が喜んでくれないことに、いつも温厚なバード夫もさすがに感情を露わにし、

「なんでもっと早く言わないの! 今更どうするんだよ!」

と怒りをぶつけてきました 

バードは、

「自分でもどうしたらいいかわからなかった。あそこがすごくいい土地だとよくわかっている。私だって新宿は大好きだし、あそこに地縁があるとも感じているし。あとは私の四ツ谷への執着だけ。私の気持ちだけが流れに逆らっているだけじゃない。それがわかっているから、早く気持ちを変えようと思っていたけど、そう簡単に気持ちが変えられなくて・・・。でも3か月間あればまた気持ちも変わっていくかと思って・・・」

と説明するしかありませんでした。

中央線の窓に映るは、人混みの間でポロポロ泣いているアラフォーのおばさん。。。


優しいバード夫はすぐにバードの告白を受容して、

「いざとなったら白紙解除できるから・・・。どうしても四ツ谷が良かったらやめればいいし・・・。でもそう簡単に白紙解除ってできるものなのか不安だけど」

と言ってくれました。


この後すぐ建築条件付きでの家造りが始まりました。 

白紙解除の期限を迎えるまでの3か月間。

バード夫婦は、本来自分が在るべき春を夢見ては耐え忍ぶ、越冬つばめとなりました