白髪がちょっと伸びた、おそらく70代と思われる、細身のおじいさんが出てきました。ジャスコやダイエーのワゴンセールで売っているような、地味でヨレヨレした長袖ポロシャツに長ズボン。細身なため衣類がたるんでしまい、そのような印象を受けたのかもしれません。


大家さん宅の庭(車のないカースペース)と道路の間は以下のような可動式フェンスで仕切られていたのですが、 



大家さんはこのフェンスを開けて出て来ることなく、手前で足を止めました。

緊張したバード夫が、フェンス越しに菓子折を渡しながら挨拶し、バーっと「ご理解いただけないでしょうか」という内容を話しました。


大家さんは菓子折を拒絶しながら、悲し気な声で、

「こんなんいらないからよ・・・工事をやめてくれよ・・・どうしてうちに太陽光があるって知っていたのに塔屋を寄せて建てたんだよ、今すぐ壊してくれよ、な?、頼むよ、今からでも壊して建て直せるだろう?」

とおっしゃいました。

それに対し、バード夫が苦しそうに「あのっ、ほんとに申し訳ないですが、工事を中断することはできません」と応えます。すると大家さんがだんだんヒートアップしてきました。

 「できるだろうよ、壊せるだろう、な?、壊してくれよ」

 「いえ、あの、ほんっとに申し訳ないのですけど、それはできません・・・」

 「できるだろうよ! 今からでも工務店に壊させろ!」

 「あの、ほんとにすみませんが、どうかご理解いただけないでしょうか・・・」

 「ダメだ! こちらが太陽光があるとわかっていて、どうして南に建物を寄せた! どうして塔屋をこちら側に建てた! そんな設計して良いと思ってんのか!」

 「あの、でも、きちんと法律を守って設計していますので・・・」

 「法律で問題ないからって、他人に迷惑をかけていいのか! 設計士は法律を守るだけでなく、周辺住民に配慮した設計をすべきだろう!! お前らでは話にならん!! 設計士を呼べ!!!」

 「いえ、設計士さんは関係ないですので、呼ぶことはできません」

 「設計士はな、地域に配慮した建物を設計しなきゃいけないんだよ! それが設計士の仕事なんだ! 設計士が悪い! いいから今すぐ呼べ!!」

 「・・・いえ、設計士さんは太陽光のことご存知なかったので、設計士さんのせいではありません」

 「どうして建てる前にこちらに断りに来ないのか! こちらは当初からやめてくれやめてくれと言っていたのに、あんな設計をしやがって!」

 「あの・・・、やめてくれと言われたことはありませんが・・・?」

 「言ったじゃないか!! 太陽光があるから配慮してくれと!」

 「え・・・?、あの、私どもが大家さんと初めてお話ししたのも、地盤改良のときですので・・・もうとっくに設計は終わっている頃ですが・・・?」

 「いや! 言った! 工務店のやつに最初から言ってある!! それなのにあんな設計しやがって!」

 「え、あの、工務店さんを決めたのは設計した後なので、それはおかしいのですが・・・」

 「いいから! 今からでも塔屋をやめろ! こっちは人生かかってんだよ!」


このような会話が延々と続きました。内容は上記の繰り返し。

いくらバード夫が下手に下手に出てお願いしても、大家さんは聞く耳を持たず、「いいから設計士を出せ!!」というご返答です。

話は平行線なので、途中で何度か、大家さんは家の中に戻ろうとされました。そのたびにバード夫は引き留め、お願いをするのですが、徐々に言葉が感情的になっていきました。

 「あの、ちょっと待ってください・・・! あの、ご家族の方はいらっしゃいませんか? ご家族の方とお話しさせてください!」
(※この高齢の大家さん相手だとまともに話し合いができないと思ったとのこと)

 「なんで家族を出さないといけないんだ! いいから壊してこい!」

 「あの、こちらも人生かけて家を建てているんです・・・! 大きな借金背負ってここまで建ててきて、これから返済していかないといけないのに、壊してやり直せなんて、そちらが代金払ってくれるんですか!?」


大家さんがぐいっとこちらに戻ってきて、「払うわけないだろう!! なんでうちが払わなきゃいけないんだ!! いいから壊してこい!!」と言って、再び家に戻ろうとしました。


追い詰められたバード夫が、とうとう大きな声を出しました。

 「あのっ、ほんとうに、お願いします!! お願いします!! 今から工事をやめることはできないんです!! どうか、ご理解いただけないでしょうかっ!!」


閑静な夜の住宅街に、バード夫の声が響きました。


-----------------------------------------------------
後から聞いたところ、バード夫としては、ああもうこれはダメだなと判断し、ここはとにかく大きな声を出して押し切るしかないと思って、あえて声を出したとのこと。
-----------------------------------------------------